未来少年コナンのその後 終わらない物語

未来少年コナンを初めて観たのは小学校に上る前だった。

当時はもちろん宮崎駿なんて名前は知らなかったが、最高に面白かった。

最近改めて全話を一日一話ずつ見直した。

全部観終わり、相変わらず面白かったのだが、歳を重ねて今までと違った視点から観たり、今まで気付かなかった事が観えてきたりした。

何より新たな衝撃を受けたのはエンディングテーマだ。

 

いきなり最終回の話から始めたい。


沈むインダストリアから人々と共にハイハーバーに一時的に移住したコナン達は準備の後、のこされ島に移住すべくバラクーダ号で出港する。

そして地殻変動により大陸となったのこされ島を見つけ、新たな生活を予感して全話を終える。

 

血湧き肉躍る冒険もここにひとまず終わりを告げ、開拓の苦労はもちろんあるだろうが、平和な日常がこれから始まる。

結婚式当日に逃げ出そうとしたダイスがコナンに「いつかお前にもわかる」と言ったように、退屈な、辛い日々が始まるのかもしれない。

 

どんな物語も、いつかは終りがくる、仕方がない。

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アニメ『未来少年コナン』 (C)NIPPON ANIMATION CO.,LTD.


 とはいえ感動して観終え余韻に浸りながら、いつもは飛ばしてしまうエンディングもせっかくだからと観ることにした。

黒いペンで描かれた延々と続く麦畑の小道をただただ、淡々と描いている。

もちろん面白くもなんともなかった。

おそらくはハイハーバーか、戦争の前の風景を描いたものだろう。

いや、

ストーリーとは全く関係のない穏やかな普遍的な風景を描いただけかもしれない。

地味すぎる、少年だった私は当時、説教臭くさえ感じたことだろう。


  エンディングの最後で突然、風景が開けた。

少し丘になった麦畑を超えたとき、その向こうに、

何故今まで気付かなかったのだろう、

 

海が広がった。

 

ただ単に、水平線を一本の線で描いただけの、それだけの海だった。

 

その時初めて気づいた。

間違いない、この麦畑はのこされ島の数十年後の姿だ。

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アニメ『未来少年コナン』 (C)NIPPON ANIMATION CO.,LTD.



  これまでの感動をすべて吹き飛ばしてしまうほどの衝撃を受けた。

最終回のその何十年後の世界を毎回、エンディングに流していたのだ。

延々と続く退屈な麦畑。わずかに現れる水平線。

それだけでこの物語の、コナン達の未来を、この世界の何十年分を表していた。


  ある物語に魅了された人々は、その登場人物たちの幸せを願わずにはいられない。

でも彼らのその後を知ることは殆どない。

大冒険のあとの平和な日常など、別に見たくもない。

いや登場人物たちの幸せな未来を確かめたい気持ちもあるにはある。

 

そして一見何の意味もない平和なエンディング、

抑制の効いた、全く主張のない風景によって、

コナンのラナの、ジムシーやダイスやモンスリーや、

のこされ島に移住したすべての人々、

さらにはハイハーバーに残った人達も含め、

物語の終わった後の何気ない日常が突然、

物語の中での数々のエピソードに負けないくらいの存在感を示し始めた。


 広大な麦畑、人々が苦労をして開墾し、生活を向上させ、

ハイハーバーに負けない立派な村を作り上げた。

道端の木がそれほど太くないから 2,30年くらいだろう。

コナンとラナは元気に農作業や漁に励んでいるのだろう。

コナンとラナの子どもたちも大きくなり、仕事の手伝いをしているに違いない。

ジムシー家は豚農家だ。

ダイスが船出する度にモンスリーが子どもたちと見送る。

もちろん小さなトラブルは起きただろうけれども、

その風景は不幸を微塵も感じさせない。

 

幸せの予感しかない。

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アニメ『未来少年コナン』 (C)NIPPON ANIMATION CO.,LTD.



 改めて見ると、オープニングテーマも、

ただ単にこの物語のイメージを表現しただけのではなく、

のこされ島に帰ってきた直後の生活を描いたものだ。

まだ草原の広がる丘を駆け上っていくシーンでは、

昔ののこされ島よりもはるかに広大な風景が海まで広がっていている。

ロケットの上にいるコナンとラナの下で、洗濯物が風に吹かれて揺れている。

 

コナンとラナはあの小屋で新しい生活を始めた。

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アニメ『未来少年コナン』 (C)NIPPON ANIMATION CO.,LTD.



 エピローグからから始まる物語、

なぜこの世界が作られたのかを描いた物語、

創造神話。

 

遠い未来あるいははるか昔、

滅んだ世界、

そこに新たな世界が創られる。

宮崎駿の作品に多く見られるモチーフだ。

ナウシカの立つ金色の野、

ダイダラボッチの消えたの森。

 

チベットの昔話がもとになっているシュナの旅の主人公は、

痩せた穀物しか育たない痩せた土地を離れ麦を手に入れるための冒険に出る。

数々の困難を乗り越え、麦を手に入れ、故郷から遠く離れた村で麦の収穫をし、

故郷に戻る途中で物語は終わる。

 

その後のシュナのことは描かれていないが、

コナンのエンディングの風景が教えてくれる。

 

シュナの旅 (アニメージュ文庫)


良かった。

彼らは幸せになったんだ。